大判例

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東京高等裁判所 平成11年(う)188号 判決

被告人 CことY

〔抄 録〕

一 不法な公訴受理、法令適用の誤の論旨について

1 原判決の認定した罪となるべき事実の要旨は、

「第一 平成一〇年三月一〇日ころ、平塚市内の居酒屋で、児童A子(当時一七歳)に対し、Dを引き合わせ、横浜市内のホテルで、同女に右Dと全裸で互いの性器を接触させるなどの性交類似行為をさせ、もって、満一八歳に満たない児童に淫行をさせる行為をした。

第二 同年五月九日ころ、右Dと共謀の上、平塚市内において、Eに対し、同人が当時一六歳の児童であるB子にみだらなわいせつ行為をするおそれのある者であることの情を知りながら、右B子を引き渡し、もって、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に児童を引き渡した。」

というものである(以下、第一の事実を本件第一事件と、第二の事実を本件第二事件という。)。

そして、原判決は、本件第一事件は、児童福祉法三四条一項六号所定の「児童に淫行をさせる行為」(六号違反行為)に、本件第二事件は、同条項七号所定の「前各号に掲げる行為をするおそれのある者その他児童に対し、刑罰法令に触れる行為をなすおそれのある者に、情を知って、児童を引き渡す行為」(七号違反行為)に、それぞれ該当するとした。

2 これに対し、所論は、児童福祉法三四条一項が、「何人も、次に掲げる行為をしてはならない。」と命じている六号違反行為には、行為者が、児童に、第三者を相手として「淫行をさせる」場合だけでなく、行為者自身を相手として「淫行をさせる」場合も含むことを前提とした上で、次のように主張する。すなわち、

(1) 六号違反行為には、行為者自身が相手となって、児童に「淫行をさせる」場合を含むとしても、児童福祉法が、六号違反行為について、一〇年以下の懲役または五〇万円以下の罰金(同法六〇条一項)と、他の各号違反行為に比して格段に重い処罰で臨んでいることは、その解釈適用の面でも考慮すべきであり、本件第一事件におけるように、児童である女子高校生が、むしろ積極的に、いわゆる援助交際として、自由意思で主体的に性交行為を行った事案であって、同時に七号違反行為でもあるような場合には、適用されるべき法条が競合関係にあってその刑罰に軽重がある場合として、六号違反行為としてではなく、七号違反行為として取り扱うべきもので、この点を看過した原判決には、判決に影響を及ぼすべき法令適用の誤があるというべきである。

(2) 被告人は、「平成一〇年四月二三日ころ、平塚市内のホテルで、B子(当一六年)が一八歳に満たない青少年であることを知りながら、結婚を前提とせず、単に自己の欲望を満たすためのみに同女と性交し、もって青少年に対しみだらな行為をした」として、神奈川県青少年保護育成条例違反罪により、平成一〇年一一月一二日、川崎簡易裁判所で、罰金刑に処せられた確定裁判(以下、条例違反事件という。)があるところ、右条例違反事件は、即、行為者自身が児童の淫行の相手となった六号違反行為として児童福祉法により処罰することができたはずのものである。他方、本件第二事件は、右条例違反事件の約二週間後に、被告人がDと共謀の上で、Eに対し、同人が前掲条例違反事件の対象となった児童と同一児童であるB子にみだらなわいせつ行為(刑罰法令に触れる行為)をするおそれのある者であることの情を知りながら、同女を引き渡した行為をとらえたものであるが、引渡し後に、同女は、Eを相手に性交類似の行為を行ったのであり、被告人も、同女がそのような淫行を行うことを、引渡し前から認識していたのであるから、事の実際は、被告人において、七号違反行為に止まらず、六号違反行為があったというべきである。検察官が、本件第一事件を六号違反行為として起訴しておきながら、これと実質上変わるところのない本件第二事件を、六号違反行為としてではなく、七号違反行為として起訴したのは、その訴追裁量権を考慮しても、恣意的で許されることではない。したがって、右条例違反事件と本件第二事件は、いずれも、同一児童に関する六号違反行為としてとらえるべきものであり、両者は、包括して一罪の関係にあるから、条例違反事件について確定裁判が存在する以上、本件第二事件は二重起訴されたものであり、原判決は、不法に公訴を受理した違法があって、破棄を免れない。

3 そこで検討する。

(1) 児童福祉法三四条一項六号が、「児童に淫行をさせる行為」を直接禁止するのに対し、同項七号は、六号違反行為等、児童の福祉に有害な行為を児童にさせるおそれのある者やその周旋をする者に児童を引き渡すことにより児童が福祉上有害な行為をさせられるような不健全な環境に陥ることを、未然に防止しようとするもので、その禁止の段階・場面を異にするのであり、適用法条が競合する関係にはない。

そして、本件第一事件は、七号違反行為を経て行われた場合ではあるが、関係証拠によれば、被告人が、自分の店でアルバイトをしていた児童A子を顧客のDに、売春の相手として引き合わせて、ホテルで性交類似の行為をさせたことが認められ、六号違反行為の存在することは明らかであり、同法の立法趣旨にかんがみれば、それが、たとえ児童の方からいわゆる援助交際を求めたことを契機として行われた場合であっても同様であって、原判決の法令の適用に誤りはない。

(2) 児童福祉法三四条一項六号が禁じている「児童に淫行をさせる行為」とは、行為者が、児童に対し淫行を強制する行為に限らず、物的あるいは精神的な事実上の影響力を児童に及ぼすことにより、児童をして淫行するように仕向ける行為をいうと解される(最高裁昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決刑集九巻一四号三〇一八頁、東京高裁平成八年一〇月三〇日第九刑事部判決高刑集四九巻三号四三四頁参照)。そして、同法の立法の趣旨にかんがみると、これには、行為者が児童に、第三者を相手として「淫行をさせる」場合だけでなく、行為者自身を相手として「淫行をさせる」場合も含むことは当然である。

そこで、所論にかんがみ検討するに、裁判が既に確定している、所論指摘の条例違反事件の概要は、関係証拠によれば、被告人が、平成一〇年二月ころ、ある女子高校生と知り合い、いわゆる援助交際を重ねていたが、同年四月ころ、同女から紹介されて、援助交際の相手として、その友人である児童B子と近づきになり、同月二三日ころ、

「四万円あげるからおれとやろうよ」などとB子に申し向けて、応諾したB子と平塚市内のホテルで性交し、四万円を与えた、というものと認められる。

他方、本件第二事件は、右条例違反事件の約二週間後に、被告人がDと共謀の上で、Eに対し右B子を引き渡した行為を、七号違反行為としてとらえたものであるが、関係証拠によれば、被告人は、B子がEを相手に淫行する気持ちがあることを直に確かめた上で、同女をEに引き渡し、その後、同女は、Eを相手に性交類似の行為を行ったことが認められるから、所論指摘のとおり、被告人は、七号違反行為に止まらず、六号違反行為をも行ったものというべきであり、本件の場合、これらは包括して一罪として評価・処断されるべき関係にあるということができる(したがって、右を併合罪の関係にあるとして両方を起訴することは許されないが、七号違反行為のみを起訴したことは、許されない措置であるとは認められない。)。

そこで、右条例違反事件の事実とEを相手に淫行をさせた事実との関係を考えるに、たとえ、所論主張のとおり、右条例違反事件の事実が、同時に、六号違反行為にも該当するとしても、右が被告人自身を相手として淫行をさせたのに対して、本件第二事件と包括一罪の関係にある六号違反の行為は、その約二週間後に、第三者を相手に淫行をさせたのであるから、同一児童を対象とする犯行ではあるが、両者は、その犯意と犯行の態様を異にし、それぞれ別個の六号違反行為であって、併合罪の関係にあると評価すべきである。したがって、本件第二事件は、二重起訴には当たらず、所論は、その前提を欠くというべきである。

(高木俊夫 久保眞人 岡村稔)

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